精神異常者
助手の絵美子は、カールさせた髪と艶々しい唇が自慢の美しい女性だ。誰が彼女に惚れようと文句はいえまい。実のところ、すっかり私も彼女には惚れこんでいたのだ。しかし、あいつだけは許すことができなかった。なぜなら、仕事上あいつと私だけが毎日彼女のそばにいれるのだ。いや、立場的に私が手を引くべきだったのかもしれない。
病院のいつもの部屋で(病院といっても精神病院だが)、私と武田は週1回会うことになっている。もちろん彼女も一緒だ。武田はこの病院に5年もいる、いつも同じ服しか着ない危ない眼をした男だ。うんざりした口調の神経質なこの男と面談するのはいささか疲れるが、彼の怒りやすい性格を恐れて私は我慢して話を聞くことにしている。しかし、彼は私を快く思っていないらしく、私に対してあまりにも無礼なことを口にするので、私達はよい関係を築くことができないでいた。彼が協力的でないので私は病気を治すことができるのかいつも頭を悩ませていたのだ。
武田の彼女に対する気持ちがわかったのは、彼女がお茶を入れに部屋を出た後のことだった。私が彼女への想いを口に出してしまったとき、武田は薄笑いを浮かべながらこの私に悪態をついたのだ。私は、独占欲の強い自己中心的な男がどんな行動にでるのか知っていたので内心ビクビクしていたのだが、彼はすまなそうな顔をしていた。しかし、私は病院での立場を忘れてでも絵美子を手に入れると誓ったのだった。
私がそれを目撃したのは、いつもより10分程早く病院に着いたときだった。部屋に入ると武田が彼女にキスをする、いや襲い掛かる(私にはそう見えたのだ)瞬間だった。私はとっさに近くにあった花瓶で危険な犯罪者の頭を叩き割ってやった。
暴行魔から救ってあげたというのに、最愛の人を失ったかのような顔で非難の言葉を浴びせる絵美子には、私なりの愛情表現で応えてあげた。
武田は優秀な医師だったが、どうやら私を治すことはできなかったようだ。私は今、4つ目の病院で治療を受けている。
| 固定リンク | コメント (2) | トラックバック (0)

最近のコメント