夏休みに入った僕は、学校のある九州から静岡に帰る予定でいたのだけれど、帰郷の前日に帰り賃の入った封筒を盗まれてしまう。久しぶりに実家で堕落した生活を過ごしたかったのに、ウンコ野郎が。財布にはちょっとしかないし、自力で帰ることは絶望的だった。
僕はどうしても帰りたいという気持ちと、お金を取られたことでの「どうなってもいいや」という気持ちから、人生で初のヒッチハイクに挑戦することにした。
高速道路から長距離のトラックに乗させてもらえれば、きっとうまくいく。なんだか楽しい気分になってきたじゃないか。しかし、高速道路まで行かないとどうしようもない。タクシーを使おうか。いや、せっかくだからまずはヒッチハイクに慣れておこう。そう思って僕は通り過ぎる車に必死で手を上げた。
なかなかどうして、止まってくれる車などいやしない。なんだよ、出足からこれか。ちょっと焦ってきた僕は、100万ドルの笑顔作戦に移行するか迷っていた。と、そこへ1台の車が止まり声をかけてくる。助かったぜ。しかし、ちょっと危険な香りがする運転手と同乗者。でも、自分から止めておいて「やっぱりなんでもないです」はまずいと思い、びびりながらも乗せてもらうことにした。
運転手「なに?ヒッチハイクしてんの?」僕「ええ、高速道路まで行きたいんです」運転手「いいよー」。とてもいい人達じゃないか、疑ってしまった自分が恥ずかしい。ヒッチハイクっていうのは出会いあり、善意ありの素敵な旅なんだよ。まるで映画の主人公だぜ。そんなのぼせ上がっている僕に信じられない言葉が、「で、いくらもってんの?」。えええぇぇ、もってないからヒッチハイクしてんだろ。僕「もってないです」運転手「お前死ぬか?」僕「・・・」。この時の車内の空気は、今まで体験した中でもトップクラスの重さだった。
楽しい無言のドライブを終え、降ろされたのはなんだか高速道路とは程遠い、田舎の農道だった。本当に僕が貧乏なのを確かめると、はした金はもちろんのこと、タバコや時計といった小物から着替えの入ったバックまで、ありとあらゆるものを掻っ攫っていく。あ、「とるだけじゃかわいそうだから、なんかくれてやらんとな」と言ってゲンコツを貰いました。頭悪そうなのになかなか面白いことを言う奴だ。
あぜ道を泣きながら歩いている僕は、若者とは思えないほどの哀愁を醸し出していたことだろう。軽トラにのったおじいちゃんがたまたま通りかかったので、事情を話すと家に招待してくれておにぎりを食べさせてくれた。このときのおにぎりはホントにうまかったなぁ。それで、タバコも吸わせてくれたんだけど、うわあああぁぁん。
映画「千と千尋の神隠し」で、千尋が泣きながらおにぎりを食べるシーンがあるんだけど、僕はストーリーと関係ないことを思い出してしまって泣きそうになる。
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